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伊藤無垢|ナイーブアート・スピリチュアルアート

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2026-06-26|In その他|約3分

鈴の音

itoumukuBy itoumuku

先週、母が他界しました。八十八歳でした。

今は、さまざまな悲しみが体の中を巡り続けています。
絵を描いていても、色彩がわからなくなり、思いもよらない色を置いてしまうことがあります。

母は尊厳死カードを持ち、「自宅で最期を迎えたい」という強い願いを持っていました。

往診のお医者さんや看護師さんに支えられながら、実家で静かに床についていました。

その日、私は仕事を休み、実家にいました。

姉は、母が何かあったときすぐにわかるよう、ベッドの柵に小さな鈴を結び付けていました。

突然、その鈴が鳴りました。

「お母さん、大丈夫?」

そう言って母のもとへ行くと、母は静かに眠っています。

何かの拍子に鳴ったのだろうと思い、試しに鈴を振ってみました。

コロコロ……

低く柔らかな音でした。

先ほど聞こえた鈴の音とは、どこか違うような気がしました。

私はそのまま台所へ戻りました。

しばらくすると、不思議なことに、家の中が急に慌ただしくなったような気配を感じました。

けれど、その時家には私しかいません。

「気のせいかな。」

そう思っていると、今度は

チリン……

チリン……

と、澄んだ高い鈴の音が聞こえてきました。

もう一度母の部屋へ向かいました。

母は変わらず眠っています。

ベッドの鈴は揺れていません。

それなのに、高く澄んだ鈴の音だけが、どこからともなく聞こえてくるのです。

お隣の風鈴だろうか。

玄関の鈴だろうか。

そう思い、母の無事を確かめて、また台所へ戻りました。

ところが、しばらくすると、その鈴の音は途切れることなく鳴り始めました。

チリン……

チリン……

不思議なほど澄み切った音でした。

胸騒ぎがして、急いで母のもとへ向かいました。

母は、眠るように静かに息を引き取っていました。

それからは、不思議な鈴の音は、ぱったりと聞こえなくなりました。

後になって確認すると、お隣には風鈴も玄関の鈴もありませんでした。

姉が結び付けた鈴を何度振ってみても、あの澄んだ高い音は鳴りません。

あれは何だったのでしょう。

今でもわかりません。

けれど私は、あの鈴の音は、母が天へ旅立つことを知らせてくれた音だったのではないかと、静かに信じています。

母は苦しむことなく旅立ちました。

薬も断り、やがて食事も水も自然に受け付けなくなり、眠るように最期を迎えました。

床についてから、一か月も経たない別れでした。

母は、最後にベットの中で

「救急車は呼ばないで。蘇生もされたくない。」

そう話していました。

だから私たちは、その意思を尊重しました。

駆けつけてくださった看護師さんと、その後いらした往診のお医者さんが、静かに最期を見届けてくださいました。

先生は、

「立派な意思を貫かれましたね。」

と声をかけてくださいました。

そして私は、その母を最後まで支え続けた姉にも、深く感謝しています。

今も深い悲しみの中にあります。

それでも母は、自分の望んだ場所から、まっすぐ父の待つ天国へ向かったような気がしています。

その夜、うつらうつらしていると、見たこともないほど深い色彩の花畑が見えました。

光を宿したような赤い花。

夢のように咲き誇る色とりどりの花々。

「私はこんな美しいところにいるのよ。」

母が、そう教えてくれたような気がしました。

母との人生は、決して一言では語れません。

苦しかったことも、悲しかったことも、たくさんありました。

それでも最後の一か月、母は最後まで自分の意思を貫き、家族に負担をかけまいと生き抜きました。

それが、母の愛だったのだと思います。

お母さん。

本当に最後まで、お母さんらしかったね。

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