油絵の筆が少ないので、もっとたくさんにしたいと思っていました。
小さな瓶に差して使っていたのですが、筆を取ろうとするたびに、ほかの筆がバタバタと倒れてしまって、どうにも使い心地がよくありません。
心の中で、ぼんやりとイメージしていました。
「大きな花束を大きな花瓶に入れているみたいに、たくさんの筆を立ててみたいなあ」と。
そんなことを思いながら、いつものように近くの文房具屋さんに行くと、まさにイメージした通りの大きな花瓶が目に飛び込んできました。
油絵用の長い筆を入れるのにちょうどいい高さで、口も広くて、すっとした形をしています。
それを見た瞬間、
このくらいの花瓶にいっぱいになるくらい、筆がそろえられるようになるよ。
天使がそう言っているように感じて、うれしくなってその花瓶を買いました。
家に帰って、さっそく筆を入れてみると、一本一本がゆったりと立って、とても気持ちがよい眺めです。
けれど、短い小筆まで一緒に入れてみたら、今度は花瓶の中にもぐり込んでしまって、探すのがひと苦労。底のほうで、ひっそり眠っているように見えます。
「これはこれでいいけれど、小筆には小筆の花瓶があったほうがいいなあ。小筆でいっぱいになるくらいの入れ物が欲しい」と思いました。
そう思いながら数日すごしていると、今度は別のお店で、小筆を入れるのにぴったりの丈の花瓶を見つけました。
背は低めだけれど、口が広くて、小筆たちが首だけ出して並んでいる姿が目に浮かびます。
また心の中で、声が聞こえたような気がしました。
この花瓶にも、いつか小筆がたくさん並びますよ。
天使にそう言われたように感じて、今度も希望で胸がいっぱいになり、その花瓶を連れて帰りました。
そのあと、少し歩いた先の別の店にふと入ると、なんと、最初に買った大きな花瓶と同じものが、棚にずらりと並んでいるのを見つけました。
同じ形、同じ色の花瓶が、何本も何本も肩を並べているのです。
一つだけじゃなくて、もっともっと。
あなたが思っている以上に、筆はそろえられるようになりますよ。
そんなメッセージを、天使が送ってくれているように思えて、うれしくなりました。
よく考えれば、ただ花瓶が並んでいただけの、ささやかな出来事です。
でも自分の心の中で思い描いていたイメージと、目の前に現れたものが、何度もぴったりと重なるとき、私はそれを「小さなシンクロニシティ」だと感じます。
筆そのものを与えてくれるのではなく、まず「たっぷり入る入れ物」からそろえてくれる天使。
その余白を見ていると、これから満たされていく未来まで、そっと約束してもらったような気持ちになります。
うれしくなって、勢い込んで、筆を少し買い足しました。
まだ花瓶はいっぱいではないけれど、空いているところにも、これからの時間や、これから描く絵の気配が詰まっているように感じます。
こんなふうにして天使がサインを送ってきているのだと思うと、毎日の出来事が少し違って見えてきます。
花瓶ひとつ、筆一本。その小さな選びものの中にも、静かな導きが隠れているのかもしれません。